あるいは、一筋の詩が



東京には14時を少しだけ回った頃に着いた。

 

いつもなら夜行バスで往復するが、

今回は気まぐれに車で。

駐車場を探して街を2周3周したあと、

博物館に併設された大層な作りの

立体駐車場に車を突っ込んだ。

 

リハーサルは16:30からだったが、

その前に今日のイベントで共演する

小倉"モッフィー"北斗 という男と

昼飯を食いに行く約束をしていた。

 

 

話は逸れるが、

彼とは去年の年末に同じく今日のイベントで共演するGhettoというバンドの企画で初めて顔を合わせた。

確か、俺の方が出番は先だった気がする。

ライブが終わってすぐ、まだ客の視線もフロア中央にいる俺に向いている時に彼はズカズカと寄ってきて俺を抱きしめた。

ものすごく痛かったのを覚えてる。

彼は耳元で一言だけ、「良かった」と言った。

今まで何度も投げかけられたその言葉を

心から受け取れたのは久しかった。

それから、両国には毎月行っているが

彼を見ない日の方が少ない。

共演だったり、ライブを観に来てくれたり、

彼が働くラーメン屋で大盛りのラーメンと大量の餃子を振舞ってもらったこともある。

正直苦しかったが、味は本当に美味しかった。

彼とは同郷で、聞けば通っていた高校も俺が通った母校の隣の学校だったらしい。

東京に行くたびに、「なんでもっと早よ言わへんねん!嫁に言うて泊める準備したんのに!」と大声で怒鳴りつけてくる彼を、

俺は本当に敬愛している。

 

 

15時に着くと言っておいたので、

1時間ほど時間に余裕があった。

駅の近くにある古着屋に入り、

イかれた柄のシャツを2枚買った。

そういえば、モフの兄貴が2,3日前に誕生日だったことをLINEのタイムラインで知ったんだった。

あまり高価なものは突き返される、というか、

何を買って行っても受け取ってくれない気がしたのでコンビニで彼が吸う銘柄のタバコを4箱だけ買った。

それから、駅の陰に入って両国の昼下がりをぼんやりと眺めながら、彼が来るのを待った。

 

 

あまり車のいない東名高速を80kmで走りながら続きを書く。

眠気覚しにちょうどいい。

 

ライブが終わって、0時手前まで打ち上げに参加した。酒は飲めない。

会話の内容は、おおよそここで書けるものは無かったな。

それにしても、楽しい夜だった。

モフ兄貴は湯立つほどに気合いの入ったギグ。

Ghettoには初めて見るバンドかのような新鮮さを感じた。

2組ともに、日々音楽に立ち向かって、寄り添って、更新し続けようとする気概があった。

アレを見せられると、やめられない。

 

京都まではあと4時間半。

今日を思い返し、アクセルを踏む右足に力が入った。

 

 

あるいは、一筋の詩が

彼の善や悪を変えたり

あるいは、一筋の詩が

彼女の弱や強を決めたり

あるいは、一筋の詩が

僕を楽や苦に導いたり

あるいは、一筋の詩が

君の生や死を選ぶなら。

 

風より疾く、鉛のように重いそれを。

手で包む優しさと投じる厳しさを。

隅から隅まで知りたかった。

 

あるいは、一筋の詩が

他の誰でもない、

僕の未来を変えてくれると信じて。